幸運な偶然が生み出すもの
土・釉・技
門外不出。本家だけに伝わる
御用窯時代の陶土。
黒田藩が、よりよい素材を求めて七隈に良質な陶土を発見し、高取焼が早良郡、いまの福岡市大鋸谷に移窯したのが貞享三年(1686年)のこと。味楽窯では御庭焼高取と呼ばれるこの時代の土を保有し、現在も作陶に使用しています。
御用窯時代の土が使えるのは本家・味楽窯のみであり、門外不出。この土があるからこそ、味楽窯は遠州高取の「綺麗さび」を今に再現し、薄造りを特徴とする精巧できめ細かな茶陶を生み出すことができるのです。
九州の美しき自然が作りだす
七色の釉薬。
高取焼の特徴を表す七種類の釉薬(黒釉・緑青釉・布羅志釉・黄釉・高宮釉・銅化釉・白釉)。その原料はすべて藁や石などの自然のものです。もちろん現代であれば成分分析を行って化学的に釉薬を調合することもできるでしょう。色あいを均一に保つ点ではその方が優秀かもしれません。しかし、人間が造った素材だけでは、意図的な美しか生まれないのです。
完全に不純物を精製できない天然素材だけが生みだす「人知を超えた美」を追い求めるからこそ私たちは天然素材のみを活かします。窯を開けるたび、息をのむ。果たして自然は、どんな色を見せてくれるのか…。長年の経験をもとに計算しつつも、最終的には「天のみぞ知る」色であり、その色は奇跡。二度と会えないかもしれない千載一遇の色なのです。
蹴ろくろ、うちごて、薄さを究める、
一子相伝の技。
薄造りこそ、高取焼の真髄。
味楽窯では、陶工が自らの手に合わせて自作した木製の七つ道具を活かし、蹴ろくろを使って茶陶を制作します。自作の道具から指先に伝わる感覚と、陶工自身の脚の動きの調整によって生み出される器。高取焼の代名詞ともいえる「肩衝」に関しては約1.5mmの薄さにまで至ります。高取焼味楽窯では、これを門外不出の技として一子相伝で伝えており、マニュアルも設計図もありません。伝統の土、自然の釉、家系の一人だけが受け継ぐ技。三位一体の奇跡が生み出す茶陶は、一期一会の存在と言っても過言ではないでしょう。