軌跡、そして未来
名陶工 味楽

十六代味楽継承者
亀井久彰

亀井久彰(十六代)亀井久彰(十六代)
職人技を培ってこそ芽吹く、
創造力がある。
久彰氏が茶陶の道を志したのは10代の頃。
大学卒業後に京焼の職人を育成する訓練学校へ進学したが、そこでは独創性を排除した職人としての技術が徹底的に叩き込まれたという。
陶芸には創造力が重要と思われがちだが、久彰氏は訓練学校での教育意義を「イメージ通りの作品を、早く的確に生み出すために欠かせない素地」と強調する。
こうして技を磨き、味楽窯での作陶をスタートさせた久彰氏を待っていたのは、4カ月後のボストンでの個展だった。高取焼の基礎すら知らない自分に愕然とし、父・十五代味楽氏の「自由にやっていい」という言葉にも戸惑うばかり。
足掛かりとして「写し」を行おうと先代の作品に学び、そこにわずかな自分らしさをプラスするのがやっとだったという。しかし、そのもどかしさは、やがて「自分の高取焼を築きたい」という情熱に変わっていく。
四百余年の歴史から生まれた、
新色「極光釉」。
久彰氏の代表色といえば、青だ。
アースカラーが特徴的な高取焼では意外に思われるかもしれないが、古い高取焼には焼き方によって青を生じさせたものがある。特に久彰氏の祖父にあたる十四代の作品には、青いものがいくつか存在した。久彰氏はそこに着目。味楽窯所有の土は層によって成分が異なること、天然釉の成分が環境によって変わることを踏まえ、理想の青に近づける化学反応を解明した。
代表作「高取極光釉鎬手茶盌」は、鎬の効果による青のグラデーションが神秘的な秀作。極光とは「オーロラ」の和語であり、夜空の色を表現したいと研究に励んだ久彰氏本人が命名した新釉薬である。なお、この茶盌は福岡市長やフランスの王族などが茶を楽しまれた器となり、今では非売品となっている。
「高取焼を若い世代に広めたい思いが、とても強い」という久彰氏。黒土を活かした青い茶陶について、当初、十五代からはあまり肯定的に受け止められなかったというが「茶道の形が変わり始めている今の時代において茶陶とは何かを考えたとき、この変革は必要と感じた」と確信をもって語る。
現代では化学的に再現できない釉薬の色はないと言われており、その自由さが個性を横並びにさせる環境を生み出している。しかし天然素材を用い、複数の釉薬を使う高取焼なら、必ず個性が出せるはずだ。そうした高取焼の特徴も味方につけながらオリジナリティを確立し、最高の高取焼を作るのが久彰氏の目標となっている。

経歴

平成3年
十五代味楽の長男として生まれる。
平成26年
法政大学経営学部経営学科卒
平成28年
京都府立陶工高等技術専門校成形科総合コース卒
米国ボストンに於いて親子展
平成29年
博多大丸に於いて西皿山開窯300年記念親子展
新宿京王百貨店に於いて親子展
平成30年
ボストンに於いて親子展
令和元年
パリに於いて個展
現在
福岡市福翔高等学校非常勤講師
モモチカルチャセンター陶芸講師

代表作

  • 高取極光釉鎬手茶盌(黄釉・白釉・黒釉)

    高取極光釉鎬手茶盌(黄釉・白釉・黒釉)
    伝統釉を用いながら高取の新しい可能性を探求して創出された「極光釉」が深遠な久彰氏の代表作。鎬が生む青のグラデーションが夜空のオーロラ(極光)を想起させる。
  • 高取極光釉水指(白釉・黄釉に黒流し)

    高取極光釉水指(白釉・黄釉に黒流し)
    高取焼では珍しい黒土を使い、引き締まった黒の味わいを引き出すべく正面のみに釉薬を掛けた作品。伝統的な形に、新技法の釉と土で現代的解釈を加えている。
  • 高取極光釉千段水指(白釉に黒流し)

    高取極光釉千段水指(白釉に黒流し)
    十四代味楽氏が発案した「千段」型水指に、「久彰ブルー」と呼ばれる青を効かせて。凹凸によって計算を超えた釉薬の面白みが生じ、自然に、あるがままの景色をつくる。